行政書士が行う業務・専門分野は多岐にわたる
以前、行政書士があつかうことのできる書類の数は、数千種類〜1万種類を超える膨大な数にのぼると言われ、対象となる分野も非常に幅広いことをお話ししました。ここでは、行政書士の一般的な仕事分野の手続きの内容を紹介していきます。 まずは行政書士および行政書士を目指すみなさんが、独立開業後に専門分野として従事したい業務のイメージを大まかにつかんでみてください。
- 遺言・相続
- 契約書
- 自動車登録
- 日本国籍取得
- 土地活用
- 内容証明・公正証書・その他
- 外国人雇用関連
- 法人関連手続・会計記帳
- 許認可申請>飲食店・風俗店・遊戯店
- 許認可申請>建設業・宅地建物取引業
- 許認可申請>運送業・産業廃棄物処理業・その他
- 中小企業支援
- 知的資産・知的財産
- 電子申請・電子調達
「げ、こんなにやらなきゃいけないの・・・?」と思った方、安心してください。常識的に考えてみても、一人の行政書士さんが、すべてに精通できるはずなどありません。ここではあくまで行政書士が扱える専門分野の紹介を行いますので、まずはどんな専門分野があるのかざっと知っていく程度で大丈夫です。
遺産・相続
遺言書の作成
通常、遺言書には、以下の3種類があります。
- 「自筆証書遺言」 … 本人を筆者とする遺言書
- 「公正証書遺言」 … 公証人を筆者とする遺言書
- 「秘密証書遺言」 … 筆者の不特定の遺言書
行政書士は、これら全ての遺言書作成の支援(「公正証書遺言」では証人となること、「秘密証書遺言」ではその作成などを含む業務)を行うことができます。遺言書の作成は書く本人にとってもご遺族にとっても非常に重要で内容はもちろん形式ミスなども許されないため、行政書士が携わる上でも非常に大切な仕事です。
相続手続き
遺産相続に伴って発生する産分割協議書や相続人関係説明図等の書類作成を中心に、諸々の事前調査などを含めた業務を行います。(ただし、法的紛争段階にある事案や、税務・登記申請業務に関するものは除きます。)
契約書
紛争予防のため、そして契約履行のために契約書を交わすことは重要ですが、昨今は会社間、会社⇔個人間にだけでなく個人間でも契約書の作成が必要になる場合があります。例えば、誰かとお金の貸し借り(金銭消費貸借契約といいます)をしたとき、返済期限や返済方法、返済が滞った場合の対処方法を記載した契約書を用意したり、紛争を未然に防ぐことができるほか、きちんとした契約書を作ることで自分の身を守ることにもつながります。
あるいは、土地、建物等の賃貸借や金銭の消費貸借等を行う場合は、その内容を書面に残しておくことにより後々の紛争予防になります。行政書士は、これら契約書類の作成や、発生したトラブルについて協議が整っている場合には、「合意書」「示談書」等の作成も行ったりもします。
行政書士は、行政書士法第1条の2により「権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする」とされています。つまり、業務としてお客様の書類(契約書、内容証明書)作成を行うことを、法律が保証してくれているのです。このような契約書は行政書士だけでなく、弁護士も作ることができますが、一般の方にとって弁護士は敷居も高い存在であり、報酬も高額です。一方行政書士は、「身近な街の法律家」として、より身近に力になれる存在でもあります。
自動車登録
個人が自分で車を所有したり、法人として社用車の購入を行う際には、ナンバー変更・名義変更等の自動車登録申請が必要です。地域によって車庫証明が必要で、その手続に際し、平日に警察署へ2度以上行く必要があります。
- 新規登録申請
- 移転登録申請
- 変更登録申請
- 抹消登録申請 等
これらは、俗に言う「代書屋さん」の仕事です。この分野は需要が多く、ほかにも車庫証明や、自動車運転免許の更新手続き、自動車登録手続きなどがあります。運送業やタクシー業界で大きな顧客と契約をできると、かなりの安定が認める仕事です。
日本国籍取得
外国人の方でも、日本に長年住んでいたり、日本人と結婚したりして日本の国籍取得を希望する人が増えてきています。そういった時には帰化申請の手続きを行政書士が行います。
また、両親が結婚していない場合でも、日本人の父から「認知」された20才未満の人は「国籍取得の届出」をすることによって日本国籍を取得することができます。
土地活用
農地は国の法律で手厚く保護されているため、農地の売買をする場合には許可が必要であり、これらの手続を行政書士が一貫して行うことができます。また農地売買以外にも、「自分の畑に家を建てたい」といった人は、土地の登記を変更するのに農地転用の許可申請をする必要があります。
農地転用とは、農地を農地以外のものにすることで、具体的には、住宅地・工場用地・道路・駐車場・資材置場等にする場合があります。その他、以下に示す事例など、行政書士は、多くの土地等に関連する各種申請手続を行います。
- 開発行為許可申請手続
- 里道・水路の用途廃止及び売払い手続
- 官民境界確定申請手続
内容証明・公正証書・その他
内容証明
内容証明とは、「何年何月何日に誰から誰あてに、どのような文書が差し出されたか」を謄本によって証明するもので、トラブルの際に自分がきちんと連絡をしたことを証拠として取っておきたい場合に使われます。特に契約後のクーリングオフ等には有効な手段です。
行政書士は依頼者の意思に基づき、文書作成の代理人として法的効力が生じる書面にとりまとめ、内容証明郵便として作成することができます。(※但し、法的紛争段階にある事案に係わるものを除きます。)
公正証書
公正証書とは、公証人が権利義務に関する事実につき作成した証書です。「公正証書」は強い証明力があり、また一定の要件を備えた「公正証書」は、執行力をもつため、将来の紛争予防に大きな効果があります。
行政書士は、契約書等を「公正証書」にする手続きや、公正証書遺言の作成、「会社定款の認証」を受ける手続等を代理人として行うことができます。
債権・債務に関する手続き
行政書士は、債権問題・債務問題に関する諸手続において、債権者または債務者の依頼に基づき必要な書類の作成を行うことができます。そして、債権者と債務者との間で協議が整っている場合には「和解書」等の作成も行います。(※但し、裁判所に提出するための書類は除きます。)
外国人雇用関連
外国人を雇用したい場合などは、入国管理局への申請手続が必要になります。原則として、在留を希望する外国人が自ら各地方入国管理局に出頭する必要があります。
しかし、「申請取次行政書士」に申請依頼を行った場合、例外としてその行政書士が申請人に代わって申請書等を提出することが認められるため、申請人本人は入国管理局への出頭が免除されます。このため申請者は、仕事や学業に専念することが可能です。
申請取次行政書士とは、出入国管理に関する一定の研修を受けた行政書士で、申請人に代わって申請書等を提出することが認められた行政書士です。申請取次行政書士には以下の申請を依頼することが可能です。
- 在留資格認定証明書交付申請(招聘手続)
- 在留期間更新許可申請
- 在留資格変更許可申請
- 永住許可申請
- 再入国許可申請(海外旅行・一時帰国等)
- 資格外活動許可申請(学生アルバイト等)
- 就労資格証明書交付申請(転職等)
日本での外国人就労者や留学生は年々増え続けています。この分野では在留資格認定証明書交付申請(俗にいう「留学ビザ」「就労ビザ」です)にはじまり、滞在を延長するための外国人登録申請や、永住許可申請、帰化許可申請など、行政書士は様々なサポートを行うことができます。
法人関連手続・会計記帳
法人設立・定款変更
行政書士は、株式会社、合同会社、合資会社、NPO法人、医療法人、社会福祉法人、学校法人、組合等といった法人の設立手続とその代理(登記申請手続を除く)業務を行うことができます。また、行政書士は行政書士用の電子証明書を使用することで、電子定款の作成代理業務を行うことが法務省より認められていて、電子文書による会社定款には印紙代が不要になります(平成17年法務省告示第292号)。
また、以下のような定款変更に必要な議事録、変更後の定款も作成を行うこともできます。
- 株券発行の廃止
- 取締役会設置会社の廃止
- 監査役設置会社の廃止
- 役員の任期延長 等
会計記帳等
行政書士は、会計記帳業務等を通じ、中小、個人企業等の経営効率の改善のサポートが可能です。
また、融資申込や各種助成金、補助金等の申請手続の支援を行うこともできます。
これらの業務は、特に都市部に事務所を構えるような行政書士さんにとってポピュラーな仕事と言えます。会社設立の手続きや方法、手順などを依頼者にアドバイスしながら、設立に必要な書類手続きを進めるため、そこで依頼者に気に入られると、手続きの完了後も、設立後の各種手続や変更、議事録、契約書作成などを通じ、その会社と長くお付き合いできる道が開けていきますし、会社同士の紹介といったこともあります。
許認可申請>飲食店・風俗店・遊戯店
飲食店や遊技店を開店するには、営業開始前に保健所・警察署に必要書類を提出し、その施設が基準を満たしているかどうか確認を受ける必要があります。風俗店・遊戯店はキャバクラ、バー、ゲームセンター等々さまざまですが、風俗営業に関する許可は昔から警察の所轄で、その規制は非常にきびしいです。その許可申請は、関係法令や規制の内容に詳しい行政書士がいなくてははじまりません。飲食店街や繁華街などに事務所を構え、高額の収入を得ている行政書士さんも少なくありません。
行政書士は、店舗の形態によって、以下の許可申請手続や届出等を行います。
- 飲食店営業許可申請手続
(食堂、居酒屋、ラーメン店、カラオケ喫茶店等) - 風俗営業許可申請手続
・ 接待飲食店(キャバレー、ナイトクラブ、料亭等)
・ 遊技場営業(麻雀、パチンコ、ゲームセンター等) - 深夜酒類提供飲食店営業開始届出(スナック、バー)
- 性風俗特殊営業届出
(ソープランド、ラブホテル、派遣型ファッションヘルス等)
許認可申請>建設業・宅地建物取引業
建設業許可
一定規模以上の建設業を営む場合は都道府県知事又は国土交通大臣の許可が必要です。 行政書士は、建設業許可の要否や許可条件を満たしているか否かの判断をし、必要な書類の作成及び代理申請を行います。
これらの手続きは、行政書士か弁護士に限られているため、大きな需要を期待できます。また、一度許可を取った業者は毎年許可更新が義務づけられているので、一度許可申請を取り付けた後はリピートしてくる顧客としての需要を期待できます。さらに公共工事の入札手続にも行政書士の仕事があるので、仕事が広がりやすい分野です。また建設業に関連する以下の各種申請も行うことができます。
建設業の許可を取得したい方、国・県・市町村の公共工事の入札に参加したい方などが対象顧客となります。
■建設業許可申請(大臣・知事 特定・一般)
- 決算変更届
- 役員、資本金、技術者等変更届
- 解体工事業者登録
■公共工事入札参加資格審査申請(指名願い)
- 入札参加資格登録申請
- 経営状況分析申請
- 完成工事高審査受審(経審)
- 経営規模等評価申請(経審)
- 総合評定値請求(経審)
■その他
- 登録電気工事業者登録申請
- 建築士事務所登録申請
- 宅地建物取引業免許申請
許認可申請>産業廃棄物処理業(収集運搬、処分場)
産業廃棄物や一般廃棄物の処理業を始めたい方や、変更の手続をしたい方、自動車の解体業を始めたい方などが対象となります。
■産業廃棄物収集運搬業許可(都道府県・指定市)
■一般廃棄物収集運搬業許可(市町村)
■産業廃棄物処分業許可(中間処理・最終処分)
- 産業廃棄物処理施設設置許可申請
- 建築基準法51条の敷地位置決定申請
- 廃棄物再生事業者登録
■一般廃棄物処理業許可申請
・一般廃棄物処理施設設置計画書
■自動車リサイクル法に基づく手続
- 使用済自動車引取業登録
- フロン類回収業登録
- 自動車解体業許可 、破砕業許可
許認可申請>運送業
バスやタクシー、トラック等の運送業を始めるためには、複雑な許可申請書を作成する必要があります。行政書士は、これらの許認可手続きはもちろんのこと、開業指導及び開業後の様々な業務指導まで行います。
- 特殊車両の通行許可申請
- 軽貨物や代行運転業の開業手続
その他にも、産業廃棄物処理業、産業廃棄物や一般廃棄物の収集・運搬及び処理業、自動車解体業等の申請手続等を行うことが可能です。
■自動車分解整備事業の認証申請
■貨物自動車運送事業許可申請
- 一般貨物自動車運送事業
- 特定貨物自動車運送事業
- 貨物軽自動車運送事業
■一般旅客自動車運送事業許可申請
- 一般乗合旅客自動車運送事業(乗合バス)
- 一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス)
- 一般乗用旅客自動車運送事業(ハイヤー・タクシー)
■特定旅客自動車運送事業許可申請
■自家用自動車有償貸渡許可申請(レンタカー・リース)
■倉庫業許可申請(トランクルーム)
中小企業支援
国・自治体等の中小企業支援制度の活用
行政書士業務は、書類作成だけでなく、依頼者の求めに応じて事業関連法令の側面から経営・事業活動全般について助言・提案を行う、いわゆるコンサルティングの一面を有しています。近年では特にそういったことへの求めも多く、特に国や自治体の中小企業施策を中心に中小企業の経営・事業に関するアドバイザーとしての役割を担う行政書士も増えています。
- 知的資産経営導入、同報告書の作成などのサポート
- 事業承継、確定申請・認定申請書作成などのサポート
- 企業再生、企業再生特例認定申請などのサポート
- 経営革新計画の承認申請、農業経営改善計画の認定申請などのサポート
- 農商工連携事業計画の認定申請、地域資源活用事業計画の認定申請、商店街活性化事業計画の認定申請などのサポート
- ソーシャルビジネス・コミュニティビジネスなどの活性化支援
- 起業・事業支援公的融資申込、補助金・助成金事業者申請のサポート
行政書士は、人材不足や人件費に悩む中小企業の経営を外部から支援する専門家として、中小企業経営者をサポートすることができます。
知的資産・知的財産
知的財産権の保護・利用
文化庁への登録申請業務は、行政書士の独占業務となっています。著作権は、特許権や商標権と異なり出願・登録することなく著作物の創作によって自然に発生しますが、著作権譲渡の際の対抗要件具備などのため登録制度が著作権法上用意されています。知的財産権分野において以下にいくつか具体例をあげますが、行政書士は様々な活動を行うことが可能です。
- 著作権分野
・ 著作権登録の申請
・ プログラム著作物の登録申請
・ 著作権等管理事業の登録申請
・ 著作権者不明の場合等の裁定申請 - 産業財産権分野
・ 特許権、商標権等の移転登録、実施権の登録申請など - 農業分野
・ 種苗法に基づく品種登録の申請 - 契約業務
・ 著作権・特許権・商標権等の売買、ライセンス契約における代理人としての契約書作成やコンサルティング - その他
・ 半導体集積回路の回路配置の利用権登録申請
・ 侵害品輸入差止申立手続
・ 公証制度活用など
電子申請・電子調達
電子申請・電子調達の手続き代行
国や地方自治体による「電子政府・電子自治体」への取り組みが進むにつれ、申請・届出などの行政手続きをインターネット経由で行えるようになってきています。行政書士は、従来からある窓口申請に加え、電子定款認証・特殊車両通行許可などの各種電子申請、入札参加資格申請などの電子調達関連諸手続きを行うことができます。
- 電子定款作成代理・嘱託代理などの電子公証手続(法務省)
- 入札参加資格審査申請代理(国、地方自治体)
- 特殊車両通行許可申請代理(国土交通省)※平成24年5月23日より電子証明書は不要になります。
- 自動車保有関係手続代理(OSS:ワンストップサービス)(国土交通省)
交通事故に関すること
事故の当事者(加害者または被害者)の依頼に基づき、交通事故にかかわる調査や保険金請求の手続きなどを代行します。ケースによっては書類作成以外に、行政書士が事故の現場検証なども行って損害賠償請求額を計算し、被害者をサポートすることもあります。
また、被害者に代わり、損害賠償額算出に供する基礎資料の作成、損害賠償金の請求までの手続等を行ったり、加害者・被害者双方間で示談が成立している場合は「示談書」も代理作成します。
行政書士の魅力は、多様で幅広い業務
行政書士の魅力の一つは、非常に幅広い分野で自身の能力と資格を活かすことが出来る点にあります。もちろん全ての分野で余すことなく活躍する、ということは難しいですが、いくつかの分野を絞り込んで専門特化をすることで、自分の得意分野を持ちながら世の中や人々の役に立てるサービスを提供することができるのです。
自分が興味を持てる、得意を活かせる、ニーズがある分野を見つける
活躍できる分野が幅広い分、業務を絞る、ということは行政書士の営業戦略として重要になってきます。また、地域によっては必要とされる専門分野も違ってくるので、自分がどういった業務で仕事をしていくか、というのは非常に重要な選択になります。
また、ある業務で食べられるようになったら、今度はどれだけ専門領域の幅を広げられるかがその後の年収額を大きく左右してきます。 国家資格である士業とはいっても、行政書士として高額収入を手にするためには、専門分野の動向について常に勉強を続けながら、市場を開拓しマーケティングや営業努力を続ける意欲が欠かせないのです。